
12月も後半に入り、いよいよ年の瀬が近づいてきました。師走というのは師(僧侶)でさえも走り回るくらい忙しい月だからといわれていますが、皆さんも年末年始の準備で慌ただしくされているのではないでしょうか。年末年始になるとテレビでは皿回しの芸や手品、落語なんかを目にする機会が多くなりますが、実は都内では1年中気軽に楽しむことができるのをご存じですか?有名なところですと新宿末廣亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場、上野鈴本演芸場の4つの寄席があります。だいたい昼夜の二部制で料金は3,000円前後。基本的に飲食も自由です。寄席なんておじいちゃんが行くところなんじゃないの?なんて思っていませんか?最近は若い女性がひとりで来ていることもよく見かけます。中にはひとつひとつ演目が終わるたびに難しい顔して何やらメモを取っている人もいらっしゃいますが、難しいことを考えずに気軽に楽しんでOKです。

さて、そんな寄席で年末になるとよく耳にする噺の一つが「芝浜」。2020年に開業した山手線の最も新しい駅「高輪ゲートウェイ」の駅名の候補にもなった地名でもあります。物語の主人公は魚屋の勝。腕はいいが酒好きがゆえに失敗続き。その日も、妻に朝早く叩き起こされて、しぶしぶと芝の魚市場へと出かけます。そこで大金の入った財布を拾った勝はさっそく仲間を集めて大宴会。しこたま酒を飲んで目覚めた翌朝、妻からは「財布なんぞは知らない」、「夢を見たんじゃないのか」などと告げられ、勝は愕然。これをきっかけに酒を断ち、心を入れ替えて働き始めます。そして、三年後には立派な魚屋となって表通りに店を構えるまでになります。その年の大晦日、勝にねぎらいの言葉をかけられた妻は「実は財布の話は本当だった」と打ち明けます。これを聞いた勝は妻の機転と自分を立ち直らせてくれたことに感謝し、夫婦で幸せに暮らすという心温まるストーリーです。
大晦日が舞台であることに加え、「心を改めて新しい年を迎える」というテーマが込められており、努力と再生の物語は、新年に向けて前向きな気持ちを与えてくれます。さらに、夫婦の支え合いが描かれている点も、家族で過ごす年末にぴったりです。
落語は江戸時代から続く話芸で、庶民の暮らしや価値観を映し出す日本文化の一部です。同じ演目でも演者によって全く違う表情を見せるところも魅力で、テレビで観るのも楽しいですが、生の高座は演者の息遣いや観客との掛け合いが醍醐味です。笑いのタイミングも自由で、肩肘張らずに楽しめます。
今年の締めくくりに、寄席に足を運んで、笑いとともに新しい年を迎えてみませんか?